佐山雅弘のブログ

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2016年12月18日
リスニングルーム

 とあるリゾートホテルでの仕事。リスニングルームがあるというので入ってみた。ビバルディの“四季”がかかっている。おそろしく良い音。レコード発見。チェルビダッケの“ブラームス4番”、ムラビンスキーの“チャイコフスキー6番”。カラヤンやカラスもあるのだが、こういう時って自分の持っているモノを聴き比べてみたくなるのですね。
 一瞥して高級機種だからスタッフにお願いしてレコードをかけてもらおうとするがお若くて針の落とし方がよくわからない様子。お断りして自分でかける。生演奏は別にすると随分久しぶりに全身を耳にした。シンフォニーを通し聴きだから小一時間。弦の擦り始めの音まで伝わってきて至福の時間だった。生だとここまで大きい音で聴けないもんね。オーディオの楽しみ。
 最近はドレミ抜きで音楽を聴く、絵を見るように聴く、と努めているのだがやはりうまくいかない。初めてピーターソンを聴いた時に受けたような、波動だけがカラダを突き抜けて戻る波で背中を押される・・・ような体験をしたい。音楽以外の芸術でも味わいたいものだ。
 一回目のの演奏が終わってそそくさとリスニングルームへ。今度は先客がいて“ボレロ”がかかっている。「途中ですが“火の鳥”に代えてもいいですか?」ところが流れてきたのはファゴットの高音。“春の祭典”。CDの1曲目がこちらだったのですね。頷きあってその聴き進める。こちらもスコアが見えてくるようなくっきりとした音像。改めて曲に感動しているうちに大音響の中で会話。「こういう音質と音量でベイシーでも聴いたら最高だよな」と仰る。なんと話の合う初対面であることか。彼は車に戻ってベイシーのCDを持参。クインシーアレンジの“ムーンリバー”“想い出のサンフランシスコ”。すっかりいい気持ちになった頃に出番。
 ハタさんという調律師。上手で熱心。4回のステージを全部違う調整でトライ。@初対面だから普通に。とは言っても30年ほども前に向井さんのバンドで会っているそうな。Aちょっと明るい音にしましょうかB随分鳴ってきたからピッチのカーブを広めに取ろう。C粘りが欲しいね、と1時間。驚いたことに蜘蛛の糸の微妙さに似た粘りが音にあるのだ。僕は常々寺井尚子の音の良さの特質の一つは“ネバリ”だと考えているのだが、僕の弾くピアノでそんな音が出るとは信じられない気持ち。メロディアスなアドリブフレーズが湧き出てくる。終わった後しつこく取材してしまった。ピアノ音楽はピアニストと調律師の共同作業だと再確認した次第でした。

2016年12月8日
トリフォニーホール

島田歌穂
 新日フィルのコンサート。ゲスト島田歌穂さんのお手伝いで錦糸町のトリフォニーにてリハーサル。久しぶりのご一緒だが以前にましてうまさを痛感。持ち曲の“On My Own”は勿論絶品。余人を寄せ付けない高みがある。“サウンドオブミュージックメドレー”の広すぎる音域も楽々と歌いこなし、歌の力でオケを引っ張る見事さ。“Have Yourself a Merry Little Christmas”では英語の発音の綺麗さで押韻その他、曲の良さを存分に引き出している。広いコンサートホール、数人の客席で聴く贅沢さを満喫。

千住真理子
 僕が満喫したもう一人のゲストは千住真理子さん。メンデルスゾーンのバイオリンコンチェルトを全曲通してリハしてくれて最高の贅沢。あちこちでポスターを見かけ、一般の人に判りやすいプログラムが多い印象があったのだが、メンコン・・・いや、素晴らしかった。通る音、太い音、ダイナミックな構成と繊細な音楽表現が縦横無尽で、同曲をCD、ライブ数々聴いてきた中でも一番だった。

トリフォニーホール
 何本かの高音管が正面を向いているオルガンを聴いてみたいと思わせるホールの響きも素晴らしいが、客席から出るときに印象に残ったこと。二重扉は当たり前として、開閉時、外部からの光漏れがステージから見えないように板壁が工夫されているのだった。これははじめて見た。細やかなホール作りをしているのだなと感動した。

自問
 錦糸町の駅に向かいながら自問。“僕は歌穂さんの歌が好きか?大好きか?”実はよくわからない。しかし今日はっきり判ったことがある。僕がほとんどの歌手のことを嫌いだと感じてしまっていたのは、それは嫌いなのではなくて“好き・嫌い”の土俵に上がれてない歌手ばかりだからだ。歌穂さんくらいちゃんとしてくれていて、はじめてその後の“大好きかどうか”になるのだ。

自戒
 常に伴う単純な好き嫌いは、容貌・態度・図らずも表われる物事の考え方捉え方など、諸々の総合から来るものであり、音楽家の本質は実はそこにあるとも言えるのだが、少なくとも目にし耳にする様々な歌手のことを一括りに、“嫌いだなぁコンナノ”と早急な結論を出すのはやめようと自戒した。そういう対象には器楽奏者も含まれるはずだが、プロ・アマチュアを通じて、嫌いになる器楽奏者は滅多にいない。このことも自問の対象になるだろう。などと思索が次の項目に移る頃、降りる駅をはるかに過ぎていた。


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